column-index > column-12.

コラム12.
再び訪れる場所
~修正・加筆箇所について その2~





「コラム7.瞬きもせずへのこだわり」で書いたように、「瞬きもせず」には
全て探しきれないほどの台詞の修正が施されている事に私はとても驚きました。


そんなある日、訪問者のMINTOさんが掲示板で、
さらなる修正・加筆箇所を発見したと、詳細を投稿してくれました。
それらを比較表に追加しようと私はMCと文庫本やリミックス本などをチェックしました。
そして、その内容に大変驚きました。


修正されているのは、台詞や文章だけではなかったのです。



ここで改めて、単行本らの発行年月をふりかえってみたいと思います。
別冊マーガレットで第1回の”瞬きもせず”が掲載されたのは、
今から16年も前の別冊マーガレット1987年9月号でした。

そしてその連載がまだ終っていない翌年、1988年4月30日。
マーガレットコミックス「瞬きもせず」の第1巻が発行されました。



そして数多くの修正が加えられた集英社文庫「瞬きもせず」の発行は、
それから11年も過ぎた1999年3月23日でした。
1995年の「隆司永遠」を執筆されて以来しばらく筆をおいて
4年もたっていました。


別マ掲載から約12年、MC発売から約11年、漫画家休業から約4年たった時期の、
いわゆる「再編集版」ともいえる集英社文庫の発行。


紡木たくさんは、10年以上も昔の自分の作品を、
おそらく何度も何度も読み返し、
そして文庫本発行に向けて修正を加えていったのでしょう。


試合に出場中の紺野君の口は大きく開き、より苦しさが伝わってくるように修正されていました。
そして紺野くんと話すかよ子の顔は、その内容から真顔ではなく笑顔に変えられていました。


これらの多くの修正の中で、一番驚いたのは、背景の修正です。
訪問者のMINTOさんが教えてくださったこの場面、発見したMINTOさんにまず驚きました。
普通なら誰も気付かないような非常に小さな部分だからです。




この前後数ページにわたり、この背景のシーンはすべて、どんな小さな箇所でもガードレールに変えられているのです。




また、第1章の最終ページの印象的な校舎全体の風景も、実は数多くの修正がされていたのです。

1.渡り廊下の3階部分の屋根らしきものが無くなっています。
2.植木の種類が変わったらしく、葉が茂っています。
3.植木の土台部分の形が変わりました。


4.裏門を出たところの坂のようなものが無くなっています。


5.グラウンドを囲む塀の形が大きく変化しました。
6.塀が高くなった分か、木が少し隠れました。




ほかにも探していた所、こんな些細な場所にまで修正がありました。


MCには無かった、自転車置場の屋根のようなものが追加されていたのです。


台詞・文章の修正はともかく、
これらの絵の修正はすべて、ストーリーの進行に影響するものは1つもありません。
言い訳になってしまうけど、今まで気付く人がいなかったのはそのせいなのでしょう。


このコラムを書いている今でも、新たな発見箇所の報告投稿が掲示板に続々寄せられています。
これだけの手間をかけた紡木たくさんは、はたして読者に気付いて欲しかったのでしょうか。
私は、その答えは「NO」だと思っています。
紡木さんは、誰かに修正した事を”わざわざ”知って欲しいと思って手を加えたとは思えません。
誰かに知ってもらうのではなく、もしかしたら、たった一人”自分”だけが納得していればそれでいいとさえ
思っていたのではないか、私はそう思うのです。
漫画家・紡木たくとして、10年以上たった作品を過去のモノではなく
今も生きる、今でも読み継がれる自分の大切な作品として改めて命を吹き込んだのではないでしょうか。


これらの修正からわかるとおり、
神奈川県出身の紡木さんは、マーガレットコミックスが発売されてから集英社文庫発行までの11年の間に、
「瞬きもせず」の舞台である山口県に、そしてこの舞台と噂される学校に
再び立ち寄っていると思われます。
それは、文庫発行の為に赴いたのか、それとも11年の間にたまたま縁の土地を訪れ、
景色が変わっている事を忘れられずにいたのか、それはわかりません。
ですがはるか過去、自分が描いたその場所に再び訪れたという事実は、
何よりもこれらの背景の細かな修正が物語っているのです。



ここに最初の「瞬きもせず」と、11年後の”新しい”「瞬きもせず」が存在しているのだと、
あらためて深く実感しました。


昨年開催された、別マ原画展で「ホットロード」と「瞬きもせず」の原画を披露した紡木さん。
紡木さんはコメントを残しました。



『両作品は読者の皆さんの思いとともに わたしにとって、かけがえのないものです』




膨大な数の修正・加筆箇所を目の当たりにし、あらためてこのコメントの意味の深さを理解した気がします。
私は今までで、自らの作品をこれほどまでに大切に想う漫画家さんを他に感じたことはありません。(2004.1.7)



-終-





訂正・加筆をまとめた一覧はこちら







Special Thanks! MINTOさん ほか掲示板に情報を寄せて頂いた皆さま



※上記内容は事実確認を行ったものではありません。
訂正箇所ございましたらご連絡ください。
また、調査資料として画像を引用させて頂いておりますが、
著作元からのご指摘などには速やかに対応させて頂きます。




<<Column index | Next Column(13)>>