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コラム2.
 「車とったらつれてってやんよ」
 ~勇次がいづみを連れて行く場所~





■ 「これからもずっと」

中学の女番長・遠藤薫の家に入り浸る、学校では不良と呼ばれる仲間たち。
いづみは、仲間と一緒にいるときが一番幸せだった。

ある日、仲間の一人である勇次が、校内のアイドル”あやちゃん”とつきあう事になった。

以前から「あやちゃん好き」を公言していた勇次が、本当にあやちゃんを彼女にしたのだ。

仲間でつるんで遊んでいた時が一番だったいづみにとって、それはなんだか寂しい出来事だった。

ある日、そのあやちゃんが他の男といる現場を目撃され、みんなに責められる。

「だって寂しかったの、犬井くん、あたしじゃない人みてる・・・」

あやちゃんに自分の胸の内を見透かされた気がした勇次だが、あやちゃんを傷つけた自責の想いからか勇次がいづみに接近するような事はなかった。

勇次が仲間のたまり場である薫の家に近づかなくなって数日がたつ。

「どうしてこのまんまじゃいられないの?
なんでみんないっしょじゃいらんないの?
何で将来のことなんか考えなくっちゃいけないのぉ?
このまんまでいたいのに」
勇次に向かって泣き叫ぶいづみ。

「これからもあそぼーぜ
これからもいっしょにあそぼーぜっ、
なー?いづみ」
泣き崩れるいずみを抱える勇次。



中一の時、初めていづみが勇次に話し掛けた道がある。

「ねぇねぇこの先ってさーずっと行くとどこ行くの?」
「知んないそんなの。車とったらつれてってやんよ」

その道には、今も変わらず放課後に集い遊ぶ勇次たちがいた。



学生の頃読んだ時は気付かなかったが、最近読み返して気付いた。
この漫画の冒頭とラストに現れる、大きな道路。

「ねぇねぇこの先ってさーずっと行くとどこ行くの?」
「知んないそんなの。車とったらつれてってやんよ」


この道路に「車の免許をとったら連れて行く」約束をする勇次にとって、
そしてその時の言葉が忘れられないいづみにとって、
免許を取得できる歳になっても一緒でいれるんだという想い。
その会話こそが「これからもずっと」一緒でありたい密かな望みなのだと。

ところでこの漫画、「みんなで卒業をうたおう」のように実話だというコメントはどこにもない。

だがしかし、ストーリー外の余白に紡木さんの描いた地図があるのだ。


■「MCコミックス みんなで卒業をうたおう
著者 紡木たく/発行 集英社 1986年5月15日第4刷 」
「これからもずっと・・・」77ページより



いづみが隣の中学の連中にカバンを取り上げられたセブンイレブン前。
大きな工場前の仲間でたむろう喫茶店。
いづみが勇次に「この先ずっと行くとどこいくの?」と問う川沿いにある大きな道路
・・・などが描かれている。


その中でも特に気になる箇所がある。
がけの下に書いてある、「あっこんち」。あっこって・・・誰?
この地図に書かれている文字はすべて漫画の中にでてくるのだが、女番長・遠藤薫の家以外は漫画の中には家らしきものは登場しない。
登場人物の中にも「あっこ」という人は出てこないのだ。

漫画の中で読む限り、「あっこんち」と書かれた場所は遠藤薫のアパートと設定された方がつじつまがあいそうだ。
もしかしたら、執筆当初、遠藤薫は「あっこ」という名で設定されてたのかもしれない。
または、これも実話で、遠藤薫にあたる「あっこ」という人が実際に紡木さんの記憶の中に存在するのかもしれない。
そこでふと私は思った。
『もしかしたら、これって実在する地図かも?』
こうして私は、本当にあるのか無いのかもわからないまま、地図を眺めるようになった。

そして紡木さんの出身市であり紡木作品でたびたび舞台となる横浜に、それらしき似てる場所を見つけた。


工場がとても広い敷地にあること。
川沿いにあること。
「ひろーい道」を挟んでずっと先に中学校が存在すること。
橋を渡るとゆるい曲線を描いた曲がり角があること。
工場前の道と「ひろーい道」がぶつかった場所にコンビニがあること。
なによりそれらの建物の位置関係が同じであること。
― これらはすべて偶然?それとも。


「ねぇねぇこの先ってさーずっと行くとどこ行くの?」
「知んないそんなの。車とったらつれてってやんよ」





もし2人の会話が実在するこの場所で語られたものなら、鎌倉や江ノ島の海へつづくその道を、勇次はいづみを連れていったのかもしれない。






※ これらは事実確認したものではありません。



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